2020年04月19日

真っ暗な夜の荒野で通りがかりのアボリジニの人に車で送ってもらう

 ウルル(Uluru)/エアーズロック(Ayers Rock)に登った日の夕方、夕景の写真を撮るため展望場所(Yulara Look Outだと思う)に行く予定だった。夕景の時間まで時間があったので、ウルル(Uluru)に一緒に登ったミズキとお茶を飲みながらのんびりしていた。話しているうちに彼女も写真を撮りたいというので一緒に展望場所へ行くことにした。
 ウルル(Uluru)やカタ・ジュタ(Kata Tjuta)ははるか遠くにあった。少し遠いなとは思ったが、僕らの他に観光客もいなかったので神聖な雰囲気を味わった。変わりゆく夕焼けの光の中に佇む姿はこの日も美しかった。夕景の写真を撮っている時は、ファインダーを覗いている時間がもったいないと感じることがよくあるがこの地では特にそれを強く感じた。
Australia_20140119_0002_19870507_16_1.jpg
 できれば、その風景が想像した通りにフィルムに焼きつくようにと祈りながらシャッターを押した。
 その美しさを堪能するあまり、うっかり長居してしまい、あたりは真っ暗になってしまっていた。
 急いで歩きはじめたが、ロッジまでかなりかかる。しかも女の子が一緒だ。うかつだった。そうは言っても、しかたないので、とぼとぼと二人で歩いていると、暗闇から現れた一台の車が止まった。
ちょっと身構えていると、窓が開いて「街まで遠いので乗せて行ってあげる」と声をかけてきた。正直なところ、その車はとても古く、正直に言えば“オンボロ”に見えた。僕はますます警戒の度合いを高めた。
 車の中を覗くと、声をかけてくれたのは20代のアボリジニ男性二人だった。
 申し訳ないことに僕は、彼らを信用していいものか迷っていた。一人だったら間違いなくその車に乗ることはなかっただろう。旅行中は「人を信じすぎてはいけない」と慎重に行動することを心がけていた。でも、その通りにできないことも多かった。この時もそうだった。
 ミズキを見ると地獄に仏を見たような顔をしていた。少し迷ったが、その二人はとても親切そうに見えたし、漠然と大丈夫な気がしたので、乗ってる間に注意を怠らない様にして、乗せて行ってもらうことにした。
Australia_20140119_0002_19870507_23.jpg
 彼らの英語は僕には聞き取りにくかったが、街に着くまで楽しく話し続けた。僕の予想に反して、とても愉快で楽しい二人組だったのだ。彼らは最後にビールを彼らの代わりに買ってきてほしいと頼んできた。彼らの親戚が遠くから遊びに来てる。それで、みんなでビールを飲みたいのだが売ってもらえるところがないので、代わりにFosterを1カートンとMosel(ワイン)とBudと紅茶を買って欲しいと言う。
 僕も無知で素直だったのでそれは気の毒にと思った。これが彼らの目的だったのかと思ったが、送ってもらったお礼にそれぐらいするのは当然だと思い、いいよと言ったら、二人はとても喜んだ。そんなに喜んでもらえるのは意外だった。

 店の近くで降ろしてもらう時、皺くちゃになった紙幣を渡された。不遇な環境でなくても紙幣をしわくちゃにして持っている人がいるのはわかっていた。でも、それを見たとたん僕は突然、彼らが不憫に感じた。傲慢な僕は彼らを上から見ていたのだ。オーストラリアの社会でアボリジニの置かれた立場はなんとなく聞いていたので、その話と彼らの姿がリンクしたのもあるだろう。なんとなく聞いただけの僕は彼らの立ち位置を理解していなかった。
 お釣りはいいからと言われたような気がしたが、そんな気にはならなかった。

 ちょっと、複雑な気持ちのままビールなどを彼らに渡し、「楽しんでね」と言ったら、彼らからも「オーストラリアの旅行を楽しめよ」と返事が返ってきた。
 彼らの車はあっという間に見えなくなった。

 その時僕は知らなかったが、アルコール依存になるアボリジニの人が多いからか、彼らが買える酒量は制限されていたようだ。翌日出会った旅行者がそんなことを教えてくれた。追い打ちをかけられた様な気がした。彼らの笑顔を思い返して、僕はますます複雑な気持ちになってしまった。
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

スポンサードリンクです
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。